商品として販売されているジュエリーのうち、正確な数字はわかりませんが、おおよそ95%近くのジュエリーが「量産」可能な商品です。それらには「型」が存在し、そこから同じデザイン、同じ形状のジュエリーが出来上がり、定番のジュエリーや人気のモデルとして量産されていきます。
今日はその対極にある、ジュエリー商品全体のわずか数%にあたるいわゆる「一点物」のジュエリーについてのお話しです。
大倉堂では全体の2割~3割の商品が一点物です。
それらはどのように生まれてくるのでしょうか。
私はしばしば宝石のサプライヤーが集まる展示会に買い付けに行きます。
世界中からサプライヤーが集まるので、かなりの数の稀少といわれているダイヤモンドや他の宝石が並びます。そのすべての石を見ようとすると数日を要し、何千個にもおよぶ宝石を見ることになります。その何千もの中に、時として明らかに他とは違う魅力的な宝石を見つけることがあります。 他の石とは「輝き」、「透明感」、「色合い」、「形」がまったく違うのです。
私はそういうものに強く惹かれ手に入れ、その宝石に合うデザインを描き、ジュエリーに仕立ていくのです。
透明感のあるイエローアイシージェイド(ひすい)をダイヤモンドとグリーンガーネットで取巻いたリング
一つしか作らないため、過去に同じものはなく、思い通りの形に仕上がらないこともあります。当初考えていた製作工程とは違った工程になることもあります。それは、ナビ無しに一度も通ったことのない道を使って目的地に向かうようなものです。
そのようなリスクを避けて、過去に作ったデザインに無理にはめこもうとすると、何かサイズの合わない服を着せているような、心にもないことを話させているときのような、どうにも違和感のあるジュエリーができあがってしまうのです。
「ひとつしか作らない商品を作り出すこと」はけっして効率的ではありません。しっかりとした利益を上げるものでもありません。
私自身、「他とは明らかに違う魅力的な石を探し出し、その石を生かすデザインを考え、ただ一つジュエリーにして皆さまに御覧いただくこと」が好きなのだと思います。
あるいはそれが私の果たすべき仕事の一つのようにも感じます。
「この世に一つだけで、まったく同じものが存在しない」って、それ自体が魅力的ではないでしょうか。
こんなただひとつのめぐり合いから始まり完成された一点物は、たくさんの宝石の中から選び出し、製作の過程での多くの失敗の上にできあがった「たった一つの商品」なのです。
深いグリーンブルーのトルマリン(今ではこの色は見かけることはありません)
*クリックで詳細をご覧になれます↑
大倉堂 OKURADO
大倉仁
▲こちらの記事もぜひお読みください