前回・前々回のジャーナルから、大倉堂として最初に創った、歌舞伎の十二代目市川團十郎さんコラボレーションジュエリーについて書いています。
今回はその最終回です。
ここからご覧いただく方は、お読みになる前に大倉堂はじまりのジュエリー1部・2部のジャーナルを先にご覧いただけると幸いです。
團十郎さんからモナコのアルベール大公へのプレゼントとして、「三升」モチーフのピンブローチの製作が決定しました。素材は18金で、「三升」のように、「團十郎茶」の漆とダイヤモンドを交互に隙間なく三重にセットしていきます。
このデザインを実現できるのは、大倉堂以外にはありません。
ただ、いざ実際に製作し始めるとそれは困難を極めたのでした。
「團十郎茶」という未知の色の漆と18金、ダイヤモンド、というまったく異質の3つの素材を使用することが想像以上に難しかったからでした。
強度の違う、18金とダイヤモンドと漆をびっしりと隙間なく、なおかつ同平面に造形することは、今までに経験したことのない想像以上の緻密さを、私たちに求めたのでした。
最初に行った手順は、まずダイヤモンドを留めてその後に蒔絵師さんに漆を塗ってもらうというやり方でした。硬度的には漆が一番低いため、塗る作業中に他の素材を傷める心配がないからです。
ただ、あまりにダイヤモンドを漆が近づき過ぎているデザインのため、ごくまれに漆がダイヤモンドの下に流れ込んでしまうことが起こりました。
漆は固まると非常に強固になるため、流れ込んだダイヤモンドの下から取り除くことができず、その結果ダイヤモンドの輝きを損なってしまったのです。
次に順番を変えて、漆を先に施し、そのあとにダイヤモンドを留めてみました。
ダイヤモンドを留めるときには鋭いタガネ(先端に刃がついた棒状の工具)で18金を削っていきます。細心の注意を払って漆を傷つけないようにダイヤモンドを留めることには成功したのですが、最強の硬度をもつダイヤモンドを、18金を使って留めていくので、18金のちょっとしたゆがみが漆に影響し、漆の表面がほんの少し平らでなくなり、歪んでしまったのです。これもダイヤモンドと漆が近づき過ぎているデザインのためでした。
もう少し漆とダイヤモンドを離してセットするデザインにすれば製作は遥かに容易だったかもしれません。ただ私はこの18金、ダイヤモンド、漆をきれいに並べることで生まれる、堂々とした、「時の積み重ね」を背負った「三升」の意匠を表現するこのデザインだけは、絶対に変えたくありませんでした。
モナコ公演も間近に迫り、完成しなければいけない日が近づいていました。
正直なところ、このときになって初めて、このデザインは実現できないかもしれない、という考えが頭をよぎりました。
最終的にぎりぎりで完成にこじつけられたのは、普段では絶対やらない複雑な工程を職人が思い付いたからでした。それはまるで、商品ができあがる正しい道のりを見つけたかのような感覚でした。もともとこのデザインを作りあげるための道のりはただ一つしかなくて、私たちは熱意と技術によってその道のりをついに見つけ出したのでした。
歌舞伎の最高峰、市川團十郎さんの名を汚すわけにはいかないという想い、日本の伝統技術を表現したいという強い想い、そして今までに見たことのないジュエリーを創りたいという想い、それらが重なり合ったことで、当初のイメージ通りの堂々たるジュエリーが完成させる道が見つかったのです。

「アルベール大公モデル」の三升ピンブローチ
完成品をご覧いただいたところ、團十郎さんもお気に召してくださり、まさにこの色が「團十郎茶」だとのお言葉もいただきました。
当然今まで「三升」モチーフでダイヤモンドと「團十郎茶」を使ったジュエリーなど存在していませんでした。ただ不思議なことに、完成度の高い商品は見る人に「素材」や「色」などの違和感を感じさせず、まるで以前から存在していたかのような「整然とした雰囲気」を与えるものです。実のところ私は、團十郎さんはきっとお気に召してくださるだろうと確信していました。
歌舞伎モナコ公演の初日の夜に行われた華やかなパーティではアルベール大公もお見えになり、大倉堂の最初の作品であるピンブローチが大公の胸を飾ったのでした。
「三升」ピンブローチをご着用のモナコ公国アルベール大公
私たちが突き動かされ、今までに誰も作ったことのない繊細で堂々とした日本のジュエリーを創りあげられたのは、今も昔も真摯に革新に向き合い、同時に伝統を守り続けている團十郎さんたちの姿を拝見したからであったことは言うまでもありません。
「三升」ジュエリーは、今までで最も思い出深い、かつ最も苦労もした逸品のひとつであったことは、間違いありません。
大倉堂 OKURADO
大倉仁
こちらも私たちのアイコニックなコレクション、桜花についてです▼
RELATED POST関連記事
ご来店予約RESERVE
東京タワーの程近く芝公園の一角に
ある大倉堂のサロンでは、
ジュエリーの繊細な美しさと、
職人が手がける製作の現場を
ご覧いただけます。
ご来店は【完全予約制】にて承っております。
下記フォームまたはお電話にて、
お気軽にご予約ください。
営業時間:11:00-19:00 (日祝休業)
