今回は大倉堂の立上げからのコレクションのひとつ「あぢさゐ」のお話しです。
私が生まれた家の庭には紫陽花があり、6月になると淡い青色の花びら(実は花びらではなく正確には額だそうですが、花びらと表現させていただきます。)を咲かせていました。梅雨時に咲くせいか、曇りの日のモノトーンな背景に紫陽花の美しい淡い色が浮き立つネオンのように感じたのをよく覚えています。 「灰色の世界の中に色がある」という記憶です。
東京の中で何度か引っ越しをしたのですが、どの引っ越し先の庭にも紫陽花がありました。そして私は6月頃になると咲き始める紫陽花の淡い色合い、形に惹かれていきました。
紫陽花にはいろんな種類がありその色合いも多種多様です。
ただ、その色合いの多くはビビットというより淡い色合いです。淡い赤やピンクや青や紫、あるいは白にいたっても淡い白。
そこが私が紫陽花に惹かれる理由です。
日本人の多くもこの淡い中間色に心惹かれるのではないでしょうか。
因みに大倉堂のジュエリーでスピネルやパライバトルマリン、パパラチアサファイアをよく使うのは私が淡い中間色が好きな理由からです。
形状についてはデザイン画を描き始める段階で参考にしたものがあります。
桜ほどではありませんが、酒井抱一や伊藤若冲、広重、北斎など日本画や浮世絵にしばしば紫陽花が描かれています。参考にしたのは北斎の「紫陽花に燕」に描かれた紫陽花。さすが北斎、2次元の世界で立体感がとてもよく表現されていますし、形も美しい。
ジュエリーでもお互い重なるように咲いているその花びらの重なりを表現したいと思いました。ジュエリーでの重なった貴金属の製作は難易度がぐっとあがりますが、この重なり合いながら咲く姿が紫陽花らしさのひとつだと思い重ねる形状で製作することにしました。
その後花びら部分にいろんな色石を使って表したり、漆や蒔絵の手法を使ったり、重なり合う花びらの表現を変えてみたり、とジュエリーならではの様々な表現で今ではバリエーション豊富なコレクションになっています。
今ちょうど各所で紫陽花が咲き誇っています。その紫陽花を愛でながら、是非表現のバラエティに富んだ大倉堂の「あぢさゐ」コレクションもご覧になってみてください。
今後も長く続けるコレクションとしていきます。
30年近く前に父が亡くなり、その後母から聞いたことですが、我が家の庭にたえず紫陽花があったのは庭いじりなど一切しなかった父が唯一紫陽花だけは引っ越すたびに庭に植えていたからでした。
大倉堂 OKURADO
大倉仁
▲紫陽花は描かれていませんが、実際に日本画を観に行った際のレポートです