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2024.08.21

CATEGORY: ジュエリー製作の哲学

異なる文化から受けたもの-その2-

 

先日までフランスのパリでオリンピックが行われていました。

映像から映し出されるアスリートたちの活躍とともに、私は美しいバリの街並みを懐かしい思いで見ていました。
今から30年ほど前ですが、ジュエリーの勉強のために3年間フランスで学ぶ機会がありました。


はじめの半年はフランスの地方の町で語学の勉強をし、その後約2年半パリのジュエリー専門学校で勉強をしました。それは、父の宝飾品製造会社を私が継ぐことになったが何の知識もなかった私に、父がパリ行きを命じたからでした。
初めての海外生活は、ジュエリーどころか美術に関する知識も乏しかった私にとって、本当に日々驚くことばかりでした。
今回はその中でも特に専門学校での印象的なエピソードについていくつか書きたいと思います。

 

 

 

 

まず1つ目。

ジュエリー専門学校では自分の興味のある科目(デザイン、立体について、製作、石留、彫り、石鑑別などバラエティに富む授業が週一回ずつありました)を選択できました。「デザイン」の授業では、先生から出されたテーマを6回~8回の授業で掘り下げる、というやり方を取っていました。ある時は「繰り返し」がテーマ。生徒はまずなんでもよいのでモチーフを決めさせられます。私は「布のひだ」を選びました。自然や動植物からモチーフを選ぶクラスメートもいました。そしてそれについて調べます。

私はカーテンや昔の人の服の布の様子の調査。インターネットのない時代だったので、残念ながらグーグル検索、というわけにはいかず図書館へ行ったり、美術館にある図書コーナーへ行ったり(さすがパリ、調べる場所には事欠かなかったです)ひたすら資料集めをしました。先生から「ダビンチの描くひだは美しいよ」と言われルーブル美術館へ通いました。(このようなことができたのは本当にパリ在住ならでは。幸運でした)

そして資料集めが終わると今度は資料を見ながら2カ月ひたすらデッサン。いつジュエリーのデザインに移るのかと思っていると、最後の2回で、それぞれ選んだテーマを使って新しいデッサン(それもジュエリーではない)を描かされて終了。ジュエリーも宝石もまったく出て来なく、最後の先生のコメントは以下のようなものでした。 

 

「ジュエリー含め美しい物体のデザインにいくつかあるセオリーの1つは“繰り返し“です。 そして自分で選んだモチーフの構造に対する深い理解が必要です。 構造が理解できて初めてそのモチーフを自由に操つり、繰り返すことができるようなります。」

 

なんと基本的なコメント。 その後も「単純化」についてとか、「グラデーション」について、とかただひたすら基本的なことを学ぶ授業が1年間続きました。

 

 

中石のマンダリンガーネットをダイヤモンドのシンプルなラインの繰り返しで包んだデザイン

こちらをクリックしていただくと同シリーズのアイテムをご覧になれます。

 

 

 

 

2つ目。

ときどき他のクラスの生徒が私たちのクラスの授業に入って来ました。授業のテーマに興味がある生徒は他のクラスの生徒でもどんどん入って来ます。もちろん同じクラスの生徒が他のクラスの授業を受けることもしばしば。 隣のクラスの先生が私たちのクラスに入って来てしばらく話すこともありました。その生徒が興味をもったことや勉強になることであれば、クラスのメンバーも変わっていきます。 授業内容も生徒の質問を発端に脱線していくこともありました。

そこに関しては縦横無尽。先生も生徒も自分で判断し、自分で決めて、行動する(勝手に行動する、とも言えます)。忖度や規定のルールの踏襲など関係ない。この考え方は、滞在中いろんな場面で出くわした、フランスという国、フランス人のかなり根本的なところに流れている思想のように感じました。

 

 

 

そして最後にもう1つ。

専門学校での勉強も2年目になった、「ジュエリーデザインのスケッチ」という授業でのこと。やっとジュエリーデザインの授業がとれるようになり、フランス語にも慣れ、ヴァンドーム広場のジュエラーやセレクトショップを巡ることも多くなっていました。

そのときの授業のテーマはパール。先生は某有名ジュエリーブランドの現役のデザイナー。因みにフランス語でパールというときは必ず養殖パールと自然にできたパール(今ではほとんど見つけられないですが)はしっかりと分けていました。これもフランス人らしいですね。

その先生からはスケッチのスピード感も要求されました。 たくさんのスケッチを書き(自分でもちょっといいかな、と思うものもありました)、先生の机に持っていくと、「んー、悪くないけど。ちょっとどこかで見たことある。」の繰り返し。Déjà vu.  「デジャヴュ」のコメント。とにかくどこかで見たようなデザインはまったく受け入れられませんでした。 

次の週の授業の最後で絞り出したデザインに「このデザインはいい! 見たことがない。」と言ってくれ、クラスメートの作業を止めて皆に私のデザインを見せていました。

今でもこの何十回も先生にダメ出しされた「デジャヴュ」のコメントは耳に残っています。オリジナリティの重要さは繰り返し教えられました。

 

 

 

 

伝統的な日本の結び目のモチーフにダイヤモンドのラインにそって朱漆を施したリング、ネックレス

 

 

 

 

以上3つは、芸術とデザインに関する基本的なルールをしっかりと理解すること、他の例にとらわれず自分で決めることと、それに対するプライド、オリジナリティへのこだわり、を感じさせてくれた私の中でのエピソードです。

 

美しいパリの街並みで行われたパリオリンピックの開会式を見て、改めてパリの専門学校で教えられたことが思い出されました。

 

 

 

 

大倉堂 OKURADO

大倉仁

 

 

▼パート1はこちらから

 

異なる文化から受けたもの